SSブログ

小説車善七と「邪もカも」

車善七.jpg
小説『車善七』全三巻
車善七2.jpg
『江戸の非人頭 車善七』

小説車善七のラストシーンから始まって、ずいぶん引っ張りました。
蛇の古語が「カカ」ならば、蛇も蚊も祭の「蚊」は「カカ」つまり蛇のことかもしれません。
「蛇も蚊も祭」は「邪もカ(蛇)も祭」かも!
などとダジャレでオチをつけてみたりして。

先にも書きましたが、小説では、漁村の居酒屋で出会った留兵衛と馬連、それに助十が加わって、物語のクライマックスに向かって一気に展開します。
評論家高橋敏夫さんから引用します。(HPでも紹介しましたが)

「いったい、かくまでに大胆な展開をだれが予想しただろう。
江戸の非人頭車善七たちの争闘をえがく塩見鮮一郎の大作『車善七』(全三巻、筑摩書房)の結末近く――いままさに三人の男が、江戸の町に火を放とうとしている。
助十とトメと馬連、ひと目で非人とわかる男たちである。
助十は、理不尽にも処刑された非人小屋頭の父のかたきをうつために。
南蛮人の血をひく馬連は、キリシタンに疑われ、狩り込みを逃れて流浪を続けてきた辛苦の過去を一挙に消去するかのごとく。
武家社会の日常に飽き、商家の女房と不義密通のすえ心中をはかるも失敗、非人に落とされたトメは、もはや縮めようもない女との距離を燃えあがらせようとして。(「怒りと悲しみの炎はついに城をめざす 塩見鮮一郎『車善七』の到達点」)

トメは、留兵衛が非人に落とされた後につけられた名です。
「怒りと悲しみに炎はついに城をめざす」。高橋さん、うまいですね。

江戸を放逐された非人馬連が、江戸に舞い戻ってくる。東海道を上ってくるわけです。
その途中で偶然、生麦の「蛇も蚊も」を見て、非常に昂奮するんですね。
その勢いは、多摩川を泳いで渡った後(銭がない!)も続き、この芝浦の漁村で留兵衛にぶつけます。
生麦、多摩川、芝浦と、この奇妙なバテレンの血が混じった馬連という非人は、ずっと「海=水」を潜り抜けてきた観があります。そのパワーが、留兵衛や助十にも伝染し、やがて火、炎となって、江戸中を震撼させる結末へと一気に展開する。
水から火へ。相反するようですが、民俗学的に見ても、両者は親近性がありますね。
不動明王などもそうですが、その話はもうやめましょう。

そもそも、古事記でケガレを生じさせる原因となったのは、イザナミが火の神を生んだことで黄泉の国へ去ってしまったことから始まっています。そして黄泉のケガレをイザナギは水によってキヨメました。
小説車善七は、それを逆循環していると言えなくもないですね。
水から火へ。
それは、ケガレやキヨメといった天皇制の物語を拒否し、無化する方向へと非人たちが動き出したということではないか。
それが、「蛇も蚊も(邪もカも?)」から始まったと、言ってみたいのです。

 風が留兵衛の声を運んできた。
 「蛇も蚊も出たけ、日和の雨け、でたけ、でたけ」
 と唄っていた。


nice!(0)  コメント(11) 

nice! 0

コメント 11

1001

さっき投稿したのが
アップになっていませんね。

繰り返しておけば

吉野裕子『十二支』では
火は馬
水は猿
とあって、そのこと、
写真の文庫の35ページに書いています。
ヘビも水、サルも水、
どう考えればいいのでしょうか。
by 1001 (2013-07-01 01:41) 

wakaken

猿飼いが徳川家の馬のために呼ばれるのは、火は水によって浄化されるから。記紀神話と同じですね。
馬連たちはその逆を行ったと。
強引だったか。
by wakaken (2013-07-01 08:46) 

1001

どうして、猿と蛇が同じになるのか?
by 1001 (2013-07-01 13:52) 

wakaken

ええ、たしかに。
陰陽五行、十二支では蛇、馬は火。猿は水ですね。
ただ。吉野さんも分けて書いておられますが、中国哲学以前の原始蛇信仰はどうなんでしょう。
猿飼いと将軍家についての上記の私のコメントは間違いですね。易・五行と猿飼いは関係がありますが、イザナギ・イザナミのケガレとキヨメの話は、中国以前の原始信仰の流れでしょうか。
なんだか頭がこんがらがってきました。



by wakaken (2013-07-02 00:04) 

蜘蛛

「車善七」はお気に入りの本なので、興味津々でブログを読まさせてもらってます。

「蛇も蚊も祭り」の見学を前にして、吉野さんの『蛇』を読んで置きました。
感想は、無理なこじつけが多いなあ、
この人の物はもういいや、と思いました。

記紀を学んで、そこから蛇と蜘蛛は好きになりました。
わたしは、単純なアホですね。ふふふ。
by 蜘蛛 (2013-07-04 09:52) 

wakaken

民俗学はこじつけの学問ですから。
それが面白いといえばオモシロイ。
蜘蛛からヘビに改名しますか。
車善七にも出てきますし。
助十の筆おろしの相手ですよ。
ふってしまったけど。
by wakaken (2013-07-04 11:45) 

蜘蛛

民俗学はこじつけの学問でしたか、納得しました。

そうですねえ、蛇の方が良かったですね。
あっ、でも、まつろわぬ人ですから、蜘蛛で行きます。

瀬織律姫は登場しませんが、伊勢神宮関連で溝口睦子の「アマテラスの誕生」は、なかなかだと思っています。

by 蜘蛛 (2013-07-04 12:51) 

wakaken

タカミムスビですね。
同じタイトルで筑紫申真の名著もあります。
イセ関連は、磯崎新「イセ 始源のもどき」に尽きると思いますよ。
by wakaken (2013-07-04 13:11) 

蜘蛛

早速「始源のもどき」図書館で予約しました。
ありがとうございます。
読むのが楽しみワクワクします。
by 蜘蛛 (2013-07-04 13:36) 

wakaken

『建築における「日本的なもの」』新潮社
に入っています。遅かったかな。
by wakaken (2013-07-04 13:54) 

蜘蛛

ありがとうございます。

いえいえ、遅くないですよ、ネット予約ですから。
『建築における 「日本的なもの」』早速予約しました。
明後日には用意されてると思います。
(難しそう、素人でも読めるかな)
by 蜘蛛 (2013-07-04 14:15) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。