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江戸を歩く、東京を歩く その3

田中優子さんの『江戸を歩く』の第三章は「隅田川の流れに」で、両国、深川を歩いています。
江東区の端っこ、隅田川沿いに昨年引っ越してきた私としては、最近うろちょろしている土地なので、読んでいて楽しい。

例えば、門前仲町の「辰巳芸者」について、田中さんは書きます。

『辰巳芸者は「羽織芸者」ともいい、江戸時代では決して女性が着なかった羽織を、辰巳芸者だけは着たのである。武士のような気概である。吉原と比べ、男性的でいなせな風情が江戸の男に好まれた。いったいに江戸の男は男性的な女性が好きなのである。』

これは今でも下町に残ってますね、濃厚に。
私の元妻は、上野の生まれ。鳶の娘で長屋育ち。今でも一族が下谷神社らへんに住んでいますが、いわゆる「がらっぱち」で、神輿担ぐのを生きがいにしております。リクツこねる男が大嫌い。(汗)
最近、江東区西大島らへんの居酒屋に入ったのですが、そこの女主人、店に出るときはいつもねじり鉢巻き(でいいのかな)です。祭大好き。やっぱり屁リクツ野郎より、強い男に黙って付いていく。って感じですね。(大汗)
だから、辰巳芸者の話も妙に納得です。
深川は海が近く、もともと漁師町で、辰巳芸者は荒っぽい船頭や漁師を相手にしてきたからだと書いています。「深川は、伝法で、不行儀で、バラガキだった」(矢田挿雲)んだそうで。

また、砂村の「隠亡堀」についても書いています。
これが今の写真。「いわい橋」がかかっていますね。お岩さんのことです。
あの四世鶴屋南北の『東海道四谷怪談』ですね。

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殺されたお岩は、戸板に打ち付けられ、雑司ヶ谷の面影橋付近に投げ込まれます。それが、神田川を通り、隅田川に出て、小名木川に入っていく。ちょうど芭蕉庵があった場所を、左千葉方面にくいっと曲がっていくわけです。
「なわけないじゃん!」と突っ込んではいけません。物語ですから。戸板の死骸は、もっともドラマツルギーが高まる場所で上がらなければ意味がない。その場所として選ばれたのが砂村隠亡堀です。

(砂村隠亡堀は)『そこでは直助が鰻かきをおこなっており、伊右衛門が釣りをしている。そこに戸板に打ちつけられた小平とお岩の死骸が上がるのである。砂村は湿地帯に新田開発されたところで、当時は非常に寂しい所だったらしい。隠亡とは死骸を扱う者のことで、このあたりに江戸時代、火葬場があったという。』

今の江東区北砂あたりですが、もうそんな雰囲気は皆無です。でも、このことを知ってから、現在の隠亡堀を歩くと、すこ~しだけ、背中がひんやりする感じが味わえますよ。暑い夏の夕方なんぞに行ってみることをオススメします。蚊取り対策グッズ必須。

で、この「直助」と「伊右衛門」とは何者か。

『さて伊右衛門と対をなす悪人の直助だが、これは実在の人物だった。しかも赤穂浪士の討ち入り資金を持ち逃げした医者の中島隆碩(もと小山田庄左衛門)の奉公人だったころ、主人夫妻を殺害したため処刑されている。この中島の家、つまり直助が暮らした家が、富岡八幡宮、深川不動堂の北側に接した運河(今は首都高九号線となっている)沿いの一角、かつての丸田橋あたりにあったのである。』

あれまあ。なんという偶然。この直助の話は、塩見鮮一郎の未発表小説として、長い間眠っていたのがありました。題して『深川医者殺し』。
最近、電子書籍で読めるようになりました。
アマゾンで300円ちょいです。

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「紙の本でないとどうもなあ」という人、多いと思いますが、かくいう私もそうですが、未発表で、電子しか読めないというなら仕方ありません。読みましたよ、電子で。面白いですねえ。
元来忠臣蔵の嫌いな私は、この、いわば「ウラ忠臣蔵」の物語は、非常に興奮しながら読みました。
しかも、小説『車善七』に、ちらりとこの話が挿入されている。これは大岡越前の「名裁き」の場面ですね。名前を偽って口を割らない直助に無罪放免を言い渡し、金五両までつかわせ、安堵して気のユルんだ背中に向って「こりゃ、直助」と呼びかける。思わず直助が「へい」とばかりに振り返って、はいお縄。そのお縄を持つ非人が、『車善七』の主な登場人物だったりする。
こういうのって、なぜか嬉しくなります。物語の連鎖。「江戸サーガ」とでも言いましょうか。

ついでに紹介しておくと、四谷怪談については、以下のような好著もあります。
隠亡堀の戸板返しについても、詳しく書かれていますよ。

塩見鮮一郎『四谷怪談地誌』、河出書房、2008年。
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ああ、江戸東京さんぽって、けっこう興味が尽きませんね。




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コメント 1

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隠亡堀、行かなくちゃという使命感に駆られました。東京にいるうちにいろいろ味わいたいです。素敵な記事ありがとうございます!
by お名前(必須) (2023-10-20 07:39) 

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